「歯を黒く染める」ことが美の象徴

「歯を白くするのが美しい」というのが現代の常識。でも、かつての日本では「歯を黒く染める」ことが、美の象徴とされていたのです。
今回は、なぜ昔の日本人が歯を黒くしていたのか? その理由とともに、驚くような美容文化や生活習慣についても深掘りしてご紹介します!
歯を黒くする「お歯黒(おはぐろ)」とは?

「お歯黒(おはぐろ)」とは、歯を人工的に黒く染める風習のこと。奈良時代から明治時代の初期まで、特に貴族や武家の女性たちの間で行われていました。
実際に使われていた染料は、鉄を含む酢の液体に五倍子(ごばいし・ふし)という植物を混ぜたもの。この液が化学反応を起こし、鉄タンニン化合物となって歯を黒く染めたのです。

〔乾燥した五倍子〕
五倍子(ごばいし・ふし)とは?

〔ヌルデにできた虫こぶ〕
ヌルデの葉にアブラムシの一種が寄生してできる虫こぶ〔植物の異常成長〕のこと。
古くから染料〔タンニンを含む〕や漢方薬として利用され、渋み成分(タンニン)を豊富に含むため、防腐作用や収れん作用〔毛穴を引き締めたり、のどの炎症を抑えたり〕があるとされています。
なぜ歯を黒くしたの? その3つの理由
1. 身分や既婚の証

特に女性の場合、お歯黒は既婚者であることの象徴でした。江戸時代には、武家の女性や公家の女性が結婚を機にお歯黒を始めたことが記録されています。
これは現代で言えば、結婚指輪のような役割だったともいえるでしょう。
2. 虫歯予防の効果があった?

実は、お歯黒には虫歯を防ぐ効果もあったとされています。染料に含まれる鉄分とタンニンは、歯の表面をコーティングし、酸に強くする効果があったのです。
つまり、当時としては最先端の歯の健康法だったとも考えられます。
3. 「白い歯=獣」のイメージ

昔の日本では、白い歯は野生動物を連想させるため、美しさとは逆の印象を持たれていました。黒く染めることで、「人間らしさ」「落ち着き」「品格」を表現していたのです。
驚きの美容習慣は他にも!日本の伝統美がすごい

〔一条美賀子 徳川慶喜の正室〕
お歯黒だけでなく、昔の日本人の美容文化には、今では考えられないような習慣がたくさんあります。
● 白塗りの顔(おしろい)

「色白は七難隠す」ということわざにあるように、白く塗った肌は美の象徴。鉛を含んだ化粧品が使われていたこともあり、健康被害も…。
● 剃り眉と引き眉
中世から近世にかけて、特に貴族や武家の女性の間では、本来の眉を剃り落とし(剃り眉)、その上に眉墨などで新しく細く、丸く高い位置に眉を描く(引き眉)が主流の化粧法でした。
これは当時の美意識や格式を反映したもので、高貴さや落ち着き、教養の象徴とされていました。
※引き眉は、時代や身分、流行によって「細い」「丸い」「太い」など形が変化したようです。
お歯黒の終わりと現代へのつながり

明治時代に入ると、「文明開化」により西洋の文化や価値観が日本にも広まりました。
これまでのように歯を黒く染めることよりも、白く健康的な歯が「美しく、近代的」とされるようになりました。
結果、お歯黒の風習は「時代遅れ」と見なされ、特に都市部の若い女性を中心に、次第に廃れていきました。やがて法律や学校の指導などもあり、公式に廃止されていきます。
最後に:美しさの基準は時代で変わる

かつては黒い歯が美しく、今は白い歯が美しいとされているように、「美しさ」の基準は時代や文化によって大きく異なります。
お歯黒は一見すると不思議な風習ですが、そこには日本人ならではの美意識と知恵が詰まっています。
これからの時代も、「今の常識」にとらわれず、過去の知恵に目を向けてみると、新たな美の価値観や生き方のヒントが見えてくるかもしれませんね!
