首都キーウ（キエフ）が重要な場所である理由
ウクライナは複雑で、とても長い歴史を持っています。
古代〔紀元前3000年～紀元500年頃〕から中世〔紀元500年頃～紀元1500年頃〕にかけて『キエフ・ルーシ』と呼ばれる国家が形成され栄えていくところからはじまる。
10世紀前後、キエフ（キーウ）という地域が中心となり、キリスト教が国教として広まる。その後、モンゴルからの侵攻やリトアニア・ポーランドなどの隣国の支配を受ける。
17世紀、『ウクライナ・コサック国家』が独立を宣言したが、またしてもロシア、ポーランド、オスマン帝国〔イスラム世界の大帝国〕の支配下となる。
19世紀、ロシア帝国の支配が強まったが、20世紀初頭にオーストリア・ハンガリー帝国、ドイツ帝国、ロシア帝国との戦争（第一次世界大戦）が起こる。
世界大戦後、1918年に『ウクライナ人民共和国』として独立を果たしたが、間もなくソビエト連邦に併合される。
1991年にソビエト連邦の崩壊とともにウクライナは独立を回復したが、現在ロシアとの紛争となる。
ウクライナは東ヨーロッパの要所に位置し、古くから東西の文化や勢力が交錯してきた地域です。
このような背景から、多様な民族・文化・宗教が共存する一方で、緊張や衝突も幾度となく生じてきました。
それでは、こうした複雑な歴史の流れを、時代ごとに詳しく見ていきましょう。
キエフ・ルーシ（9世紀〜13世紀）
〔キエフ大公国の国章〕
ウクライナの歴史は、9世紀にキエフ・ルーシ（キエフ大公国） 〔現在のウクライナ、ロシア、ベラルーシの地域に栄えた東スラヴ人の国家〕が形成されたことから始まります。
その中心地はキエフ（キーウ）で首都として栄えました。
〔黄金の門 キエフ大公国時代のキエフの中央門〕
スラヴ人とヴァリャーグ（ヴァイキング）〔ゲルマン人の一派〕の影響を受け、正教会〔キリスト教の主要な教派の一つ〕を受け入れました。
この時期は東ヨーロッパ最大の都市の一つだったと言われています。
モンゴルの支配（13世紀〜14世紀初頭）
キエフ・ルーシ（キエフ大公国）は、1240年にモンゴル帝国によって征服され〔モンゴルのルーシ侵攻〕、その後もモンゴル帝国の支配下となります。
モンゴル帝国とは？
13世紀初頭にチンギス・カン（チンギス・ハン）によって建国された大帝国です。
その勢力はユーラシア大陸を席巻し、中国や中央アジア、中東、ロシアなど広大な領域を支配。帝国は急速に拡大しました。
それからの15世紀初頭までの期間は『タタールのくびき（タタールの軛）』として知られる時代となります。
タタールの軛（くびき）とは…？
〔モンゴル人徴税官バスカクがロシアの市場をおとずれた光景〕
「軛（くびき）」とは、牛や馬が荷車を引く際に首にかけられる横木のことを指します。転じて「抑圧的な支配」や「重い束縛」を意味します。
「タタールのくびき」とは、13世紀から15世紀にかけて、モンゴル帝国の後継国家であるキプチャク・ハン国（タタール人）が、現在のロシア・ウクライナ・ベラルーシの諸公国を支配していた時代を指します。
この時代、現地の住民は重い貢納（税）や軍事的義務を課され、反乱や逃亡を防ぐために厳しく管理されていました。その厳しい支配が、まるで首に軛をかけられたように重くのしかかったことから、「タタールのくびき」という言葉で表現されています。
リトアニア大公国とポーランド・リトアニア共和国（14世紀〜17世紀初頭）
14世紀末から15世紀初頭にかけて、リトアニア大公国と結びつき、ウクライナの西部がリトアニアの支配下に入りました。
その後、ポーランドと合併。ポーランド・リトアニア共和国が形成されます。
〔ルブリン合同〕
フメリニツキーの蜂起とコサック国家（17世紀）
17世紀中頃、コサックの指導者ボフダン・フメリニツキー（最高指導者へーチマンを務めた↑銅像の人）は、ポーランド・リトアニア共和国に対して反乱を起こし、キエフ（キーウ）を奪還します。
これにより、一時的に独立したウクライナ・コサック国家（ヘーチマン国家）が成立しました。
コサックとは？
武装した農民や遊牧民のことです。自由な生活のため国境地帯で活動し抵抗運動や軍事行動に参加しました。
コサックは、16世紀から18世紀にかけてウクライナやロシアの地域で特に活発に活動し、自治権を持つ共同体や軍事組織としておかれ、独自の軍隊を持ち、国家や帝国の保護下で行動したり、時に独立して行動しました。
コサックダンス（ホパーク）は、ウクライナの伝統文化で、勇敢さや自由な精神を称えるために行われます。
ヘーチマンとは？
ヘーチマン（Hetman）は、ウクライナや一部の東ヨーロッパ諸国において、特に17世紀から18世紀にかけて、コサックの軍事指導者や政治的指導者を指す称号です。
ヘーチマンは、コサックの軍隊を指揮し外交交渉を行い政治的決定を下しました。
権限は時と場合によって異なりましたが、一般的にはコサックの指導者として広く認識されており、ヘーチマンの地位は選挙などによって決定され、コサックの集会や議会で選出されました。
ポーランドの支配と分割（18世紀）
18世紀、ウクライナはポーランドとオスマン帝国によって分割され、ウクライナの地域は異なる勢力下に入りました。
オスマン帝国とは？
オスマン帝国は3世紀にオスマン1世によって建国され、1453年には東ローマ帝国の首都コンスタンティノープルを陥落させ、東ローマ帝国を滅亡させました。
その後、地中海、バルカン半島、中東、北アフリカなど広大な領土を支配し、16世紀にはヨーロッパの大部分を統治しました。
イスラム教の政治と文化の中心地として栄え、多民族・多宗教の帝国でしたが、19世紀に入ると衰退し、領土を失っていきます。
最終的には第一次世界大戦で敗北し、1922年にトルコ共和国が建国されるとオスマン帝国は滅亡しました。
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